交通事故で遷延性意識障害になった場合、どのような損害賠償を請求できるのか
交通事故に遭い、遷延性意識障害のように、被害者に判断能力が欠けてしまった場合には、被害者本人が損害賠償請求をすることはできません。
この場合、被害者が未成年であれば、親権者の父母が法定代理人として、損害賠償請求をすることは法律上可能ですが、被害者が成人に達していれば、たとえ父母であっても、被害者の代理人となって損害賠償を請求することはできません(以下では、被害者が成人に達していることを前提とします)。
では、交通事故で遷延性意識障害になった場合、どのような損害賠償を請求できるのでしょうか。
いわゆる積極損害、休業損害、後遺障害逸失利益、慰謝料の損害賠償を請求できます。
以下においては、遷延性意識障害に関する事項を概観した上、どのような損害賠償を請求できるのかについて、詳しく解説することとします。
遷延性意識障害
日本脳神経外科学会では、下記の6項目が治療したにもかかわらず3か月以上続いた場合に、遷延性意識障害と診断するものとしています。
慣習的に「植物状態」とも呼ばれます。
- 自力移動が不可能である
- 自力摂食が不可能である
- 糞尿が失禁状態である
- 声を出しても意味のある発語が不可能である
- 簡単な命令には応じることもできるが、意思疎通が不可能である
- 眼球は動いていても認識が不可能である
遷延性意識障害の後遺障害等級
遷延性意識障害と診断された場合、日常生活において、常時介護が必要になります。
そこで、自賠責の後遺障害等級についても、最も重い自賠法施行令別表第1の1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」が認定されることになります。
これにより自賠責保険からは4000万円(内慰謝料1650万円)(※)を上限として支払われることになります。
※自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した自賠法施行令別表第1の1級1号の支払いについては、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した自賠法施行令別表第1の1級1号の支払いについては1600万円です。
また、逸失利益を算定する場合の労働能力喪失率は100%ですので、請求できる金額は、かなり認められることになります。
成年後見人の選任
遷延性意識障害になった場合、被害者に判断能力が欠けてしまうため、被害者本人が損害賠償請求をすることはできません。
そのため、被害者に代わって、損害賠償請求手続を進めていく人(成年後見人)を選任する必要があります。
まず、家庭裁判所に対して、後見開始の審判の申立てを行います。
申立てを受けて、家庭裁判所は、親族や被害者らから事情を聴取し、後見開始の審判をすると同時に、最も適任と思われる人を成年後見人に選任します。
成年後見人は、選任後、家庭裁判所の監督の下で、被害者に代わって、財産を管理し、介護施設などへの入所契約を行うほか、損害賠償請求をすることになります。
損害賠償請求
交通事故で遷延性意識障害になった場合、損害賠償を請求できる主なものを挙げますと、下記のようになります。
なお、症状固定後の損害は、現在受け取る場合(一時金賠償方式)、中間利息の控除が必要になります。
すなわち、その計算式は、「基礎となる額×生存可能期間に対応するライプニッツ係数」となります。
積極損害
治療費、入院費
治療費、入院費は、実費が損害となります。
症状固定後の治療費、入院費も、一般的に、損害として認められています。
また、特別室使用料も、損害となります。
付添人費用
職業付添人が付いたときは、支払った実費が損害となります。
付添人が必要かどうかは、医師の指示で決まります。
裁判(弁護士)基準では、近親者付添人の場合、入院付添費は1日当たり6500円、通院付添費は1日当たり3300円が基準の損害ですが、常時介護では増額されます。
症状固定後の付添人費用も、一般的に、損害として認められています。
また、将来の自宅介護費については、医師が療養上必要とした場合、原則として平均余命までの間、職業付添人については実費全額、近親者付添人については1日につき8000円を認める例が多いようです。
入院雑費
裁判(弁護士)基準では、入院雑費は1日当たり1500円が損害となります。
症状固定後の入院雑費も、一般的に、損害として認められています。
また、症状固定後の将来雑費(紙おむつ、ゴム手袋、エアークッション、防水シーツ、栄養剤等)も、一般的に、損害として認められています。
通院交通費等
入院、転院するために要した交通費は、原則として損害と認められます。
近親者の付添のための交通費は、損害となります。
装具・器具等購入費
身体機能を補うための装具・器具(例・介護ベッド)等は、その購入費用が損害となります。
家屋・自動車改造費等
移動に車椅子を要する場合の段差の解消、トイレ、浴室等の改造費、又は自動車の改造費は、損害と認められます。
休業損害
交通事故による受傷のために休業し、又は十分に就労できなかったため、症状固定までの間に、得ることができたはずの収入ないし利益の減少分が損害となります。
後遺障害逸失利益
遷延性意識障害の場合、労働能力が将来にわたって100%喪失したものとみなされますので、交通事故による後遺障害がなければ得られたであろう利益が損害となります。
この場合の後遺障害逸失利益は、「基礎収入×100%×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」で計算されます。
慰謝料
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、入通院に伴う精神的苦痛に対する賠償です。
入通院慰謝料は、定型化されています。
自賠責保険基準 (※)の場合の入通院慰謝料は、1日当たり4300円が認められます。
※自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した入院慰謝料については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した入院慰謝料については、1日につき4200円です。
裁判(弁護士)基準の場合は、傷害の程度、入通院期間に応じて慰謝料額が算定されます。
後遺障害慰謝料
症状固定後、後遺障害が残存したことによる精神的苦痛に対する賠償です。
自賠責保険基準の場合は、自賠法施行令の別表第1の1級1号により1650万円(被扶養者がいる場合は増額)となります。
裁判(弁護士)基準の場合は、1級として2800万円となります。
近親者の慰謝料
判例(最判昭33.8.5民集12・12・1901)は、近親者固有の慰謝料について、「死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けた」場合には「民法711条所定の場合に類する」として、「民法709条、710条に基いて」近親者固有の慰謝料を請求しうるとしています。
そして、遷延性意識障害の場合には、一般的に、近親者固有の慰謝料が認められています。
まとめ
ご家族が遷延性意識障害になられた場合、精神的な苦痛はもちろん、将来にわたる経済的な負担も大変なものになってしまいます。
したがって、積極損害、休業損害、後遺障害逸失利益、慰謝料などにおいて、十分な損害賠償を得ることが、被害者にとって何よりも重要です。
当事務所では、後遺障害についての経験や知識が豊富な弁護士がサポートいたしますので、是非ご相談ください。