休業損害はどうやって算定されるのか

交通事故に遭い、入院や通院を余儀なくされ、仕事を休まざるを得なかった場合、職種によっては、多大な損害が発生しますが、その一つに、休業損害があります。

では、休業損害はどうやって算定されるのでしょうか。

休業損害は、算定基準によって違いがありますが、裁判(弁護士)基準の場合、原則として、1日当たりの基礎収入(例・事故前3か月の平均収入)に、休業日数を乗ずることで算定されます。

以下においては、休業損害とその計算式を示した上、その計算式の基礎となる基礎収入、休業期間などについて、裁判(弁護士)基準に従い、説明することとします。

休業損害

休業損害とは、被害者が交通事故による受傷のために休業し、又は十分に就労できなかったために、傷害の治癒ないし症状固定までの間に、得ることができたはずの収入ないし利益を得られなかったことによる損害をいいます。

休業損害の計算式

自賠責保険基準

自賠責保険基準(※)では、休業による何らかの減収があったという事実さえ認められれば、それが少額であった場合も含め、日額6100円が認められます。

※自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した休業損害については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した休業損害については、1日につき原則5700円です。

減収の日額が6100円を上回ることが証明されれば、最高で日額1万9000円まで認められます(自賠法施行令3条の2)。

任意保険基準

任意保険会社の実務では、例えば週2回の通院日だけ休んだ場合のように飛び飛びに休業(就労しながら断続的な休業)した場合であっても、定型的に、期間平均日額方式で日額を出して、実休業日数だけを乗じて休業損害を算定していることが少なくありません。(休日を含んだ一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる方式)

より有利な算定方法がある場合には、その点を具体的・積極的に主張する必要があります。

裁判(弁護士)基準

休業損害は、原則として、次のような計算式により算定します。

1日当たりの基礎収入×休業日数

基礎収入

給与所得者

サラリーマンなどの給与所得者の休業損害は、下記のように算定します。

通常、事故前3か月の平均収入(税金や社会保険料が控除される前の額)が基礎とされます。

認定資料としては、勤務先の作成にかかる休業損害証明書及び補完資料として前年分の源泉徴収票が用いられるのが通常です。

休業中に昇給・昇格があれば、その分も基礎となります。

受傷に起因する賞与の減額・不支給(立証は賞与減額証明書等によります)や昇給・昇格の遅延(立証は社内規程や上司の陳述書等によります)も、損害として認められます。

また、現実に収入減がなくとも、有給休暇を使用した場合は、休業損害として認められます。

事業所得者

自営業者をはじめ、開業医、税理士などの自由業者、商工業者、農林漁業者などの事業所得者の休業所得は、下記のように算定します。

通常、事故前年の確定申告書及びその添付書類の控えに基づいて認定されます。(税務署の受付日付印がない等の場合、納税証明書や課税証明書による信用性の補完が必要となります)

青色申告事業者の場合、青色申告特別控除前の額となります。

事業所得者の場合、給与所得者の場合(事故前3か月の平均収入が基礎とされます)と異なり、各月の所得額が証拠上必ずしも明らかにはならないこと等から、事故前年(1年間)の所得が基礎とされることが多いのです。

年度や時季による変動が大きい場合、事故前数年分の平均値や前年同時期の数値によることもあります。

裁判所も、申告額以上に収入があったことが確実に証明できたときは、申告額以上の収入を認めています。

家事従事者(主婦、主夫)

家族のために料理、洗濯、掃除等の家事労働を行う家事従事者の休業損害は、下記のように算定します。

専業の家事従事者の場合

主婦は、現実に収入を得ているわけではありませんが(主夫も同様)、判例は、家事労働も金銭的に評価されるべきものとして、休業損害を請求できるとしています。

主婦、主夫ともに、原則として賃金センサスの女性労働者の全年齢平均賃金が基礎とされます。

また、家事従事者が、治療のため家事に従事できないことから家政婦を雇ったときは、その実費が代替労働費として認められます。

兼業の家事従事者の場合

主婦、主夫ともに、原則として現実収入額と女性労働者全年齢平均賃金との高い方が基礎とされます。

無職者

事故前に就職が内定していたような場合でない限り、就労の(単なる可能性ではなく)蓋然性の証明は困難であるのが通常です。

休業損害は比較的短期間の損害ですから、逸失利益と異なり当該期間に就労の蓋然性があることを立証する必要があります。

しかし、就労の意思と能力があり(特に事故前に求職活動が行われていた場合)、かつ治療期間が長期に及ぶ場合の一定期間経過等については、失職の経緯、年齢、技能・資格等も考慮して、認められることも少なくありません。

その場合の基礎収入は、失職前の収入、年齢、技能・資格等を参考として、再就職により得られたであろう賃金の額となりますが、控えめな認定とならざるを得ず、賃金センサスの年齢別の平均賃金よりも低額となることが多いようです。

生徒、学生等

アルバイト収入等があった場合や、受傷に起因する留年等により就職遅延となった場合に認められます。

就職遅延の場合の基礎収入は、就職が内定していればその給与額、そうでない場合は賃金センサスの年齢別(22歳で就職予定であった大学生であれば20~24歳)の平均賃金となります。

休業期間

休業期間は、治癒ないし症状固定までの期間(事業再開のため合理的に必要な期間や、受傷に起因して退職ないし休業を余儀なくされた場合における転職ないし事業再開のために合理的に必要な期間は、延長されます)において、受傷に起因して休業を余儀なくされたものと認められる範囲(事故と相当因果関係ある休業の期間)となります。

休業の必要性ないしその程度(入通院時間以外も働けないような重症であったか等)の立証は、診断書によるのが通常です。

まとめ

交通事故に遭い、仕事を休まざるを得なくなったような場合、保険会社との示談交渉では、休業損害を巡って、職種によっては難航が予想されます。

休業損害は、裁判(弁護士)基準の場合、原則として、1日当たりの基礎収入に、休業日数を乗ずることで算定されます。

しかし、基礎収入の算定根拠については、職種によっては争いが生じることもあります。

当事務所は、被害者の休業損害について十分検討し、基礎収入の算定根拠となる資料を整えて、保険会社との示談交渉を進め、被害者の方の納得が得られるように、全面的にサポートいたします。

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