脳外傷による高次脳機能障害が残った場合、後遺障害等級認定を受けるためのポイントは何なのか
交通事故で頭部を強打した場合、高次脳機能障害が残ってしまうことがあります。
では、脳外傷による高次脳機能障害(以下「高次脳機能障害」といいます)が残った場合、後遺障害等級認定を受けるためのポイントは何なのでしょうか。
そのポイントは、初診時に頭部外傷に関する診断があること、意識障害の有無とその程度・持続時間の把握が必要であること、画像所見があること、因果関係があること、被害者の日常生活等の把握ができること、適切な神経心理学的検査が実施されることです。
以下においては、交通事故で負ってしまう可能性のある高次脳機能障害の基本的な説明とともに、後遺障害等級認定を受けるためのポイントについて解説することとします。
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、自動車事故などで脳が損傷されたために、認知障害、行動障害、人格変化などの症状が発現する障害であり、仕事や日常生活に支障を来し、また、半身の運動麻痺や起立・歩行の不安定などの神経症状を伴うこともあるものをいいます。
高次脳機能障害の主な症状
高次脳機能障害の主な症状としては、下記のように、認知障害、行動障害、人格変化があり、これらの症状は軽重があるものの併存することが多いとされています。
認知障害
認知障害では主に以下のような症状が現れます。
- 記憶・記銘力障害(新しいことを覚えられない、話が回りくどく要点を相手に伝えることができない)
- 注意・集中力障害(気が散りやすい、複数のことを同時に処理できない)
- 遂行機能障害(行動を計画して実行することができない)
- 判断力低下 など
行動障害
行動障害では主に以下のような症状が現れます。
- 周囲の状況に合わせた適切な行動ができない
- 職場や社会のマナーやルールを守れない
- 行動を抑制できない
- 危険を予測・察知して回避的行動をすることができない など
人格変化
人格変化では主に、受傷前にはみられなかった以下のような症状が現れます。
- 感情易変
- 不機嫌
- 攻撃性
- 暴言・暴力
- 幼稚になる
- 羞恥心の低下
- 多弁(饒舌)
- 自発性・活動性の低下
- 病的嫉妬
- 被害妄想 など
申請手続
交通事故で受傷し、症状固定時に高次脳機能障害が残った場合、後遺障害等級認定の申請手続をすることになりますが、その申請手続には、被害者請求と事前認定の2つがあります。
被害者請求の場合は、被害者が必要書類を収集して直接自賠責保険会社に申請手続を行います。
一方、事前認定の場合は、任意保険会社が、被害者の代わりに、必要書類を収集して申請手続を行います。
しかし、いずれの申請手続の場合も、高次脳機能障害が残存する症例については、高度な専門知識が要求され判断が困難な特定事案として、損害保険料率機構(以下「機構」といいます)の「自賠責保険(共済)審査会・高次脳機能障害専門部会」が審査し、等級認定を行います。
必要書類
高次脳機能障害の等級認定の申請に必要となる資料は、次のとおりです。
- 保険金(損害賠償額)支払請求書
- 交通事故証明書(人身事故)
- 事故発生状況報告書
- 診断書(事故発生から治療終了まで)
- 後遺障害診断書(症状固定後)
- 頭部の画像検査資料(CT・MRIなど)
- 診療報酬明細書
- 通院交通費明細書
- 印鑑証明書
高次脳機能障害の等級認定の考え方
機構は、高次脳機能障害の後遺障害認定に関し、
「高次脳機能障害は、自動車事故などで脳が損傷され、一定期間以上、意識が障害された場合に発生し、CT・MRIなどの画像診断で脳損傷が認められることが特徴である。意識障害が軽度の場合やCT・MRIなどで明らかな異常が認められない場合でも、高次脳機能障害が残存する可能性もある」
としています。
また、機構の「自動車保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会」は、高次脳機能障害の等級認定を行う場合、「脳外傷(脳の器質的損傷)の存在が必要となる。
脳外傷(脳の器質的損傷)を裏付ける画像検査としては、CT・MRIが有用である」とした上、
「高次脳機能障害の症状を医学的に判断するためには、画像所見のほか、意識障害の有無・程度・持続時間、神経症状の経過、認知機能を評価するための神経心理学的検査が重要であり、高次脳機能障害の有無については、これらの結果を総合的に勘案した上で判断することが重要である」
としています。
高次脳機能障害の後遺障害等級
高次脳機能障害で認められる可能性のある後遺障害等級は、別表第1の1級1号及び2級1号、別表第2の3級3号、5級2号、7級4号及び9級10号です。
高次脳機能障害の後遺障害等級認定のポイント
高次脳機能障害として後遺障害等級認定を受けるためのポイントは、次のようなものです。
初診時に頭部外傷に関する診断があること
初診時の診断書に頭部外傷に関する記載があることが重要です。
頭部外傷の例としては、頭蓋底骨折、脳挫傷、急性硬膜外血種、急性硬膜下血種、脳内血種、びまん性脳軸索損傷などがあります。
意識障害の有無とその程度・持続時間の把握が必要であること
意識障害は、脳の機能的障害が生じていることを示す1つの指標です。
脳外傷に起因する意識障害が重度で持続が長いほど(特に脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続する症例では) 高次脳機能障害が生じる可能性が高くなります。
画像所見があること
脳外傷(脳の器質的損傷)を裏付けるCT・MRIなどの画像が重要な判断要素となります。
脳委縮の所見は、高次脳機能障害の存在を裏付けるものといえます。
画像所見の評価に当たっては、頭蓋内病変や脳挫傷の有無の確認だけでなく、外傷直後より経時的に脳委縮や脳室拡大等を含めた画像上の異常所見の有無を把握していくことが重要です。
因果関係があること
自賠責保険で高次脳機能障害の後遺障害等級認定がされるためには、当然に、交通事故と高次脳機能障害との間に因果関係が認められる必要があります。
被害者の日常生活等の把握ができること
高次脳機能障害の認定に当たっては、事故の前と後とで、被害者の日常生活状況、就労就学状況、社会生活などが、具体的にどのように変化しているのかを把握するため、医師、家族、介護者による、被害者の日常生活等に関する情報も重要とされています。
適切な神経心理学的検査が実施されること
障害程度の把握においては、神経心理学的検査、具体的には、WAIS-Ⅲ、WMS-R、三宅式記銘力検査、TMT、語の流暢性、BADS、WCST、WISC-Ⅳ、KABCⅡ等の結果も参考にされます。
まとめ
高次脳機能障害がどのような障害なのか、後遺障害等級認定を受けるためのポイントは何なのかについては、お分かりいただけたでしょうか。
高次脳機能障害は、重い症状を伴うにもかかわらず、その実態が分かりずらいといわれています。
交通事故で高次脳機能障害を負い、今後の手続で不安を抱いている方は、是非、当事務所にご相談ください。