交通事故に遭い、被害者に判断能力が欠けてしまった場合、加害者に対する損害賠償請求はどうすればよいのか

交通事故に遭った場合、本来、加害者に対して損害賠償を請求できる権利は「被害者本人」に限られます。

しかし、遷延性意識障害(植物状態)、重度の高次脳機能障害や脊髄損傷などのように、被害者に判断能力が欠けてしまった場合には、被害者本人が損害賠償請求をすることはできません。

この場合、被害者が未成年であれば、親権者の父母が法定代理人として、損害賠償請求をすることは法律上可能です。

そこで、以下では、被害者が成人に達していることを前提としています。

そうしますと、たとえ父母であっても、被害者の代理人となって損害賠償を請求することはできません。

では、交通事故に遭い、被害者に判断能力が欠けてしまった場合、加害者に対する損害賠償請求はどうすればよいのでしょうか。

被害者に判断能力が欠けてしまった場合でも、損害賠償請求をすることができるのが「成年後見制度」です。

それは、家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをし、選任された成年後見人が、被害者の代理人として損害賠償請求をするというものです。

以下においては、上記のような成年後見人の役割も含め、「成年後見制度」について詳しく解説することとします。

成年後見制度

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害、発達障害などによって物事を判断する能力が十分ではない人(以下「本人」といいます)について、本人の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度です。

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度があり、法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」、「保佐」、「補助」の3つに分かれます。

判断能力が不十分な人

区分 対象者 援助者
法定後見 補助 判断能力が不十分な人 補助人 監督人を選任することがあります。
保佐 判断能力が著しく不十分な人 保佐人
後見 判断能力が欠けているのが通常の状態の人 成年後見人
任意後見 本人の判断能力が不十分になったときに、本人があらかじめ結んでおいた任意後見契約に従って任意後見人が本人を援助する制度です。
家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから、その契約の効力が生じます。
任意後見人となる人と本人との契約は、公正証書でしなくてはなりません。

成年後見制度の利用

法定後見のうち、「後見」の場合、病気や事故により判断能力が欠けているのが通常の状態となった人のために、介護の契約を結んだり、財産を管理したりする必要があるときに、家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをし、選任された成年後見人にそうした契約や財産管理をしてもらいます。

そして、交通事故に遭い、遷延性意識障害(植物状態)、重度の高次脳機能障害や脊髄損傷などにより、判断能力が欠けているのが通常の状態となった人に代わって、その人のために、損害賠償を請求する必要があるときに、家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをし、選任された成年後見人に、本人の代理人として請求してもらいます。

後見開始の審判の申立て

申立て裁判所

本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

申立てできる人

申立てできる人は、本人、配偶者、4親等内の親族、検察官などです。

また、法律上の一定の条件を満たしている場合には、市区町村長も申立てができます。

申立てに必要な書類や費用

申立てに必要な書類や費用については、次のとおりです。

  • 申立書(申立書のほか、各家庭裁判所が定める書式〔財産目録、収支予定表、事情説明書、親族関係図等〕への記入や、その他の書面の提出を求められることがあります)
  • 戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 住民票又は戸籍附票
  • 成年後見に関する登記がされていないことの証明書
  • 診断書
  • 成年後見人候補者の住民票又は戸籍附票
  • 申立手数料(1件につき800円分の収入印紙)
  • 登記手数料(2600円分の収入印紙)
  • 郵便切手

審判申立て後の流れ

調査・審問・鑑定等

申立て後、裁判所の職員が、申立人、成年後見人候補者、本人から事情を聞いたり、本人の親族に成年後見人候補者についての意見を照会することがあります。

また、必要に応じ、裁判官が事情を尋ねること(審問)もあります。

また、本人の判断能力について、鑑定を行うことがあります。

審判(後見開始、成年後見人の選任)

家庭裁判所は、後見開始の審判をすると同時に、最も適任と思われる人を成年後見人に選任します。

事情に応じて、弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士等の専門職や、法律又は福祉に関わる法人などを成年後見人に選任することもあります。

審判の内容は、家庭裁判所の嘱託により成年後見登記に記載されます。

成年後見人に対する報酬については、仕事の内容などを考慮して、家庭裁判所が定めることになっています。

不服申立て等

審判は、不服申立てがなければ、成年後見人が審判書を受領してから2週間後に確定します。

審判に不服がある本人、配偶者、4親等内の親族は、この2週間の間に不服申立て(即時抗告)の手続をとることができます。

誰を成年後見人に選任するかという家庭裁判所の判断については、不服申立てをすることはできません。

成年後見人の役割等

役割

成年後見人の役割は、本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、本人に代わって、財産を管理したり必要な契約を結んだりすることによって、本人を保護・支援することです。

仕事

成年後見人の仕事は、本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られており、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人の仕事ではありません。

提出

成年後見人は、選任後速やかに、本人の財産や生活の状況を確認して、財産目録及び収支予定表を作成し、家庭裁判所に提出します。

報告

成年後見人は、家庭裁判所に対して、原則として少なくとも年に1回、本人の生活や財産の状況などを報告し、必要な指示等を受けます(これを「後見監督」といいます)。

任期

本人が死亡又は本人の判断能力が回復するまで続きます。

成年後見人を辞任するには、家庭裁判所の許可が必要となり、それも正当な事由がある場合に限られます。

まとめ

交通事故に遭い、不運にも、遷延性意識障害(植物状態)、重度の高次脳機能障害や脊髄損傷などのように、被害者に判断能力が欠けてしまった場合、ご家族の方は、多大な精神的、経済的負担を強いられることになります。

しかも、加害者に対して損害賠償を請求するためには、家庭裁判所の審判の手続を経て、成年後見人が選任される必要があります。

しかし、被害者の状態に心を痛めているご家族が、必要な書類を整えて手続を進めていくことは容易なことではありません。

ご家族のお気持ちに寄り添いながら、全面的にサポートいたしますので、是非、当事務所にご相談ください。

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