交通事故において適用される損害賠償額算定基準には、どのようなものがあるのか
交通事故における損害賠償額の認定については、ある程度定型化して、大量の事件処理が可能なように基準化されています。
では、交通事故において適用される損害賠償額算定基準には、どのようなものがあるのでしょうか。その損害賠償額算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判(弁護士)基準という3つの基準があります。
そこで、3つそれぞれの基準で損害賠償額を算定する場合、具体的な数値により、その比較がしやすいため、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料について、検討してみることとします。
その検討結果では、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判(弁護士)基準の順に、算定される損害賠償額が高くなります。
以下においては、損害賠償額算定の3つの基準を概観し上、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の算定において、3つそれぞれの基準では、どのような違いになるのかについて、説明することとします。
損害賠償額算定の3つの基準
損害賠償額算定の3つの基準は、下記のとおりです。
自賠責保険基準
自賠責保険基準とは、自賠法に基づく自賠責保険により定められている基準ですが(自賠法16条の3)、強制保険による最小限の補償の趣旨となりますから、任意保険会社をも拘束します。したがって、任意保険会社が訴訟外で提示する賠償額は自賠責保険金を下回ることができません。
しかし、裁判所を拘束するものではありませんので、訴訟上の和解・判決に基づいて支払われる金額が自賠責保険金を上回るのが通常とはいえ、訴訟上の和解では下回ることもあり得ます。
自賠責保険金は迅速に支払われることが必要ですので、大量・迅速処理を可能とするため支払基準は定型・定額化しています。
任意保険基準
任意保険基準とは、任意保険会社が定めている基準ですが、任意保険会社に全社統一的な基準はなく、自賠責保険基準と裁判(弁護士)基準との間で各社が独自に定めた基準にすぎません。そして、任意保険基準は、各社とも対外的に公表していませんので、賠償額算定の基準としては意義に乏しいとされています。
裁判(弁護士)基準
裁判(弁護士)基準とは、(公財)日弁連交通事故相談センター東京支部編「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)あるいは (公財)日弁連交通事故相談センター編「交通事故損害額算定基準―実務運用と解説」(通称「青本」)に基づく基準ですが、赤い本と青本でも多少の相違があります。以下の説明は、赤い本によっています。
3つの基準による入通院慰謝料
例えば、入院1か月、通院1か月(通院実日数10日)の場合は、下記のようになります。
自賠責保険基準の場合
入通院慰謝料は、1日当たり4300円が認められます。
※自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した入院慰謝料については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した入院慰謝料については、1日につき4200円です。
対象となる日数は、支払基準においては「傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内」とされ、実務上、「治療期間」と「入通院実日数×2」を比較して、少ない方を採用することになります。
治療期間 | 入院日数30日+通院日数30日=60日 |
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入通院実日数×2 | (入院日数30日+通院実日数10日)×2=80日 |
以上から、4300円×60日で、入通院慰謝料は25万8000円です。
任意保険基準の場合
各社とも非公表ですが、自賠責保険基準を下回るものではないとされています。
裁判(弁護士)基準の場合
入通院期間に応じて慰謝料額を算定します。赤い本の算定表には、別表Ⅰと別表Ⅱの2種類があります。原則は、別表Ⅰを使用します。むち打ち症で他覚的所見がない場合や、軽い打撲、軽い挫創(傷)の場合には、別表Ⅱを使用します。
なお、慰謝料算定の基礎となる入通院期間とは、症状固定時までの入通院期間をいいます(即死ではない死亡事案では、受傷から死亡までの間の入院慰謝料が認められるのが一般的です)。
入通院慰謝料は、2か月で77万円です。
3つの基準による後遺障害慰謝料
例えば、後遺障害等級1級~14級の場合は、下記のようになります。
自賠責保険基準の場合
※自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した後遺障害による損害の保険金等の支払いについては、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した後遺障害による損害の保険金等の支払いについては括弧内の金額です。
なお、第3級までは被扶養者がいる場合は更に増額します。
1級(別表第1) | 1650万円(1600万円) ※常に介護を要する後遺障害の場合 |
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1級(別表第2) | 1150万円(1100万円) |
2級(別表第1) | 1203万円(1163万円)
※随時介護を要する後遺障害の場合 |
2級(別表第2) | 998(958)万円 |
3級 | 861(829)万円 |
4級 | 737(712)万円 |
5級 | 618(599)万円 |
6級 | 512(498)万円 |
7級 | 419(409)万円 |
8級 | 331(324)万円 |
9級 | 249(245)万円 |
10級 | 190(187)万円 |
11級 | 136(135)万円 |
12級 | 94(93)万円 |
13級 | 57万円 |
14級 | 32万円 |
任意保険基準の場合
各社とも非公表ですが、自賠責保険基準を下回るものではないとされています。
裁判(弁護士)基準の場合
1級 | 2800万円 |
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2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
平成14年4月1日以降の事故で、後遺障害等級別表第1の2級の後遺障害と別表第2の後遺障害があった場合、自賠責保険では併合による等級の繰上げはありませんが、赤い本に基づく慰謝料の算定に当たっては、併合による等級の繰上げをして算定されます。
3つの基準による死亡慰謝料
自賠責保険基準の場合
死亡被害者本人の慰謝料(相続されるもの) | 400万円 |
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遺族の慰謝料 | 請求権者1名⇒550万円、同2名⇒650万円、同3名以上⇒750万円。死亡被害者に被扶養者がいるときは上記金額に200万円を加算します(死亡慰謝料は、最大で1300万円となります)。 |
※自賠責保険の支払基準が改正され、令和2年4月1日以降に発生した死亡事故については、新基準が適用されます。令和2年4月1日以前に発生した死亡事故については、死亡した本人の慰謝料は350万円です。
任意保険基準の場合
各社とも非公表ですが、自賠責保険基準を下回るものではないとされています。
裁判(弁護士)基準の場合
一家の支柱 | 2800万円 |
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母親・配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000万円~2500万円 |
この基準額は、死亡被害者本人の慰謝料と近親者固有慰謝料を合わせた金額です(遺族が多くても少なくても総額は変わりません)。
まとめ
交通事故において適用される損害賠償額算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判(弁護士)基準という3つの基準があり、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の額については、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判(弁護士)基準の順に、算定される損害賠償額が高くなります。交通事故に遭った場合、交通事故に精通している弁護士に依頼すれば、慰謝料額を増額できる可能性がありましょう。